9月に実施した第1回「Rの会/機運醸成セミナー」において配布した資料を以下に転載いたします。(機運醸成セミナーとは、レトロ建築やまちづくりへの意識・価値観を高める、認知を広める活動のことです)
きさらづのレトロ建築とまちづくり
レトロ建築は、現存する過去である
現在のきさらづには、地域を象徴する核がない。アウトレットやイオンモールは地域のものではなく、たんなる商業施設である。もっと地域の歴史性の流れのなかにある象徴となる何かが必要ではないか。「シンクディファレント」とステーブ・ジョブズも言っていたではないか。(「発想を変える」「ものの見方を変える」)
象徴とはなにか、それはこころの拠り所であり、こころのシンボルである。
いやいや、「港町きさらづ」という歴史があるだろう、がしかしそこにはなんら実体がない。さらにいえば、見るべきものがないといえる。
それは魅力のあるものが、この地域に何もないと同義である。これは少しばかり言い過ぎだったかもしれないが、あながち間違いでもないはずだ。
港町きさらづの歴史を語っても、虚しくなるのはなぜか。それは見るべきものの実体がないからだ。いまそこにその痕跡が皆無であるからだ。
一方、きさらづには辛うじて歴史を継承する建物が残されている。それがレトロ建築である。しかし、それらの建物群は現実にはほとんど見向きもされず、激しい劣化が進行するばかりとなっている。一方、地方創生は、経済合理性に基づきマンション建設に動いている。
いつまでもあると思うなレトロ建築
放置プレイさながらに、ほったらかしにされたきさらづのレトロ建築は、このまま何もせずにいれば、近い未来にはすべて消失するのは必然である。
しかし、このレトロ建築こそ、きさらづに残された唯一の象徴となる可能性を秘めている。なぜならば、地域の歴史性を残した現存する唯一の存在であるからだ。
その理由をさらに重ねていえば、他の歴史性はいまでは見ることも、触ることもできないからだ。懐かしい写真や文献、あるいは伝承のなかに仕舞われている。
現存するレトロ建築に、もう一度生命を吹き込み、再生し、蘇らせれば、地域の歴史性を有した象徴として、こころのシンボルとなり、まちの核として活性化に寄与するはずである。確証はないが、たぶん間違いはない。
<ヒストリータウン構想>
・古い建物→保存ではなく、生きたまま再生する。
・現代生活が変化するなかで、どこかで接点を持たせつつ、伝統、歴史性を継承してゆくことが、地域固有の界隈に活気をもたらす。
<歴史を継承する>
・視点を変える…古い建物群を残すことで地域の価値を高めてゆく。
・再生する…もう一度、生命を吹き込んでみる。
また、建物だけでなく、居心地のよい道、情緒を残す界隈など視点を変えれば、現代にも通じる再生ができるはずである。
中心街活性化のアイデア
寂れた商店街、シャッター街を再生するのは、並大抵のことではない。それは商業関係者のあいだで共通の認識となって久しい。
そこで実現性云々は別にして、ひとつのアイデアを提言したい。それは、中心街にひとつのテーマを設定することだ。そして、商店街はそのテーマに基づいた集合体となり、顧客に訴求していくのである。
ただし、「みんなの明るい商店街」など、抽象的で意味のないものではなく、より具体的なテーマでなければならない。
てんでんばらばらに各商店が顧客に向き合うより、テーマに沿った集合体として顧客に対応する方が、格段に訴求力は向上し効果的となるはずだ。これは、別の意味でいえば、街中に広がる平場のショッピングモールともいえる。
留意点をあげれば、テーマは諸刃の剣ともなる。テーマが陳腐化すれば、あっという間に飽きられて、元の黙阿弥となってしまう。
<テーマパークの手法>
従来の遊園地や行楽施設は、その地域の観光名所に重点をおく場合もあったものの、多くにおいて定型の遊具や施設を設置するなどして、それらで遊ぶという形態がとられており、そこには一貫性が無かった。
テーマパークはそういった従来の「一貫性の無い遊園施設」との差別化を図るため、明確なひとつのテーマを掲げて遊具や施設、個々のみやげ物に至るまで、一貫性を持たせて訴求する遊園施設群である。
その多くは複数の建物からなるなど、施設的にも大規模なものとなる傾向があるが、屋内型施設などに「ミニテーマパーク」などとして、所定のテーマに沿ったアトラクションを提供する施設も見られる。
・ひとつのテーマを掲げる
・テーマという軸ですべてを考える
・テーマを掘り下げる
・縦にひろげる、横にひろげる
・テーマに沿わないものは、取り入れない=排除する
・したがってテーマは、フィルター装置となる
なお、このアイデアの実現性は皆無に等しい。なぜならば、商店街にはそれぞれの事情があり意見がまとまらない、さらにはコストがかかる。商店街がひとつの意見でまとまるのは希有であるらしい。
そのような事情を流通関係者はよく理解している。だから、大手流通小売は、地方中心街にできるだけ近づかないし、見向きもしていない。
可能性があるとすれば、より狭い領域でやるしかない。たとえば、路地裏のストリートなどである。そこで成功すれば、拡大する可能性もあるかもしれない。
Rの会では、このテーマに「レトロ建築の再生・活用・保存」という考え方をひとつの柱として活動をしていく所存でいます。しかしながら、それはとても、とても難しい作業である、といえます。
今後の活動にご支援のほどよろしくお願いいたします。
冒頭写真:木更津市 鈴一商店(落花生に特化した老舗商店)
追記:
台風直下のどしゃぶりの雨が降る9月某日、千葉大学の学生さん数人を対象に「きさらづ界隈ツアー」(レトロ建築や界隈の路地裏をめぐるタイムスリップツアー)を実施しました。
学生さんたちは、平成9年生まれだそうです。そんなとても若い人たちが、意外にも歴史ある古い建物に興味を持ってくれました。また、界隈の細い路地裏なども新鮮だったそうです。
観月通りにある氣志團御用達の飲食店「ルフラン」を紹介する際に、ドラマ「木更津キャッツアイ」の話しをしたところ、そのドラマをだれも知りませんでした。
いつまでもあると思うなドラマの人気とその効果である、実に感慨深い出来事でした。いやはや。このことから思うのは、ドラマ人気という浮ついたものに便乗するのではなく、もっと地に足が付いたまちづくりの必要性を感じてなりません。
ちなみに、きさらづ中心街ではドラマの撮影場所として利用されることが多いそうです。その理由のひとつは、歩行者が少ないので撮影の進行がスムーズに行われることにある、と誰かが言っていました。なーるほど、納得である。
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