非営利任意団体/Rの会 2018年6月設立

歴史ある建物の保存と活用に関する一考察

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Rの会を設立して1年が経ちました。(2018年5月設立)

たいした活動もできませんでしたが、ほんの少しずつですが、進展はあったように感じています。これからも、できることをひとつずつやっていきたい、そのように考えています。よろしくお願いいたします。

歴史ある建物の保存と活用(以下、利活用)に関して、この1年で収集した情報の一部を以下に整理しご紹介いたします。

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歴史ある建物の保存と活用に関する一考察


木更津市 蔵造りの建物

昨今、日本への海外からの観光客数は3,000万人を超えて、今後さらに増加しそうな雰囲気が濃厚となっています。

「観光立国」という著作のあるデービッド・アトキンソン氏は、日本には海外から8,000万人の観光客を呼び込む潜在的な魅力がある、と語っています。

そのような背景もあり、日本固有の歴史や文化の掘り起こしが求められています。「日本遺産」という新しい制度もできました。そして、歴史ある建物の存在意義も見直されつつあります。

一部の地方都市では、積極的に歴史ある建物を再生し、利活用することで多くの観光客を集めることに成功しています。

しかしながら、歴史ある建物の利活用は、口で言うほど簡単ではありません。それを実施するには多くの課題を解決しなければなりません。

歴史ある建物には、所有者さんがいて、当然所有権があり、同意を得なければ利活用はできません。日本では、いかに価値ある歴史的建造物でも、所有権者の権利が法律上では優位になっています。

なお欧米では、国や地域で歴史的建造物を保存指定ができるそうです。欧米には数多くの歴史ある建物がのこされていますが、その理由は生活者の意識や価値観の違いと、制度上の違いにあるようです。


木更津市 蔵造りの建物

伝統的建造物群保存地区

歴史ある建物が多くのこる地域では、所有者さんの同意を得るのに大変な手間がかかります。それを解決する手段として、街並み全体を「伝統的建造物群保存地区」に指定することがあります。(通称、伝建地区)

この伝建地区に指定すると、当該街並みと周縁地区、そして建物自体も保存が基本となり、建物の解体や売却も簡単にはできなくなります。

そして、必然的に建物などの利活用が推進されていきます。(修復や修繕費がかかるので、利活用していかざるをえない)

この成功例が、川越一番街とその周辺地区となります。(ほかにもあります)

<川越市/観光客入込数>
1982年 約150万人(再生前)
2017年 約700万人(経済効果/約150億円)

<川越市/人口数>
1970年 約15万人
2018年 約35万人

<川越市/歴史的建造物の棟数>
1)重要文化財=4件/14棟
2)重要伝統的建造物群保存地区=1地区/伝統的建物133棟
3)登録有形文化財=12件/12棟
4)埼玉県指定文化財=9件/12棟
5)川越市指定文化財=52件/71棟
6)景観重要建造物・都市景観重要建築物等=84件/104棟
7)歴史的風致形成建築物=8件/11棟
※3、5、7に関して、重複を含んでいます。

伝建地区は、川越一番街、京都祇園新橋はじめ、全国に118箇所ある。千葉県には、香取市佐原の一箇所のみとなっています。

京町家ネットの活動と仕組み

京都における歴史ある建物の保存・活用の活動と仕組み
京都では、「京町家再生研究会」をはじめ4つの団体が有機的に結びあい、歴史ある京町家の保存・活用を積極的に展開しています。

1)特定非営利活動法人京町家再生研究会 (1992年7月発足/会員数80名)
(目的)町家に係る調査・研究、再生提案、情報発信、活動の連携など、実践を通じて、歴史的資産としての京町 家の保全再生とそれらを生かしたまちづくりを目指す。

2)一般般社団法人京町家作事組 (1999年4月発足/会員数35社)
(目的)町家の修復、改修、診断などのために熟達した技能・技術者、施工業者を紹介し、高度な技術と適正な価格 で実施できる道を拓き、京町家の保全再生に資する。

3)町家の暮らしを知る京町家友の会 (1999年4月発足/会員数417名)
(目的)京町家の持主、住み手、および町家の保全再生に関心をもつ人達(全国民を対象に)の情報交換と勉強および 親睦を図るため、参加しやすい催事を行なう。

4)空き町家と人をつなぐ京町家情報センター (2002年4月発足/登録業者25社)
(目的)京町家再生研究会の担当者3 名と登録不動産業者が協働して、京町家に関するあらゆる不動産情報を収集し、 持主・売主と借主・買主を友好的に結びつける。

 四組織はその目的にしたがって独自の日常活動を行っているが、「京町家の保全・再生による市民主体のまちづくり」という理念を共有し、有機的に絡み合って京町家ネットとして市民運動を展開している。

 いずれも、安易に行政の支援を仰いだり、企業の助成、委託事業等に頼ることなく、市民としての使命に徹した運動を主体的・積極的に続けている。

京都では、2018年に室町起源の京町家が解体される、というできごとがありました。昨今、京都は局地的バブルに見舞われて地価の上昇に伴う地上げなどが盛んになっているようです。なんとか、京都らしい街並みを守ってほしいと願います。

重要文化財と登録有形文化財

歴史的な建物を文化財として保存する
歴史的な建物を保存するには、国指定の「重要文化財」と、より地域や所有者の思いに密着した「登録有形文化財」とがあります。

昨今では、歴史ある建物への意識・価値観の高まりと同時に、より利活用しやすい「登録有形文化財」への登録が増えている。

<登録有形文化財/審査基準>
1)国土の歴史景観に寄与しているもの
2)造形の規範になっているもの
3)再現することが容易でないもの

どちらの文化財指定でも、建物の解体や売却は簡単にはできない。

きさらづでは、「ヤマニ綱島商店」だけが、街中にある唯一の登録有形文化財となっています。そのほかにも歴史ある建物は存在しますが、ただ時の流れに委ねられています。さらには、「浜田屋」などは、あと一歩で文化財指定でしたが、なんと商店会執行部は、自らその道を閉ざしてしまいました。いやはや。

寄付金や会費で建物を取得し保存・活用する

英国の「ザ・ナショナルトラスト」は、歴史的建築物や庭園を自ら取得、または寄贈を受けて保存・活用するNPOである。日本にも支部がある。

ナショナルトラストの運営は、一般会員の会費、寄付金を基本にしている。なお、英国ではナショナルトラスト法というものがあり、特殊なNPOとなっている。

欧米のほかの例では、歴史ある建物を自ら取得し、修復や修繕したのち民間に売却または賃貸して収益を上げているNPOもあるそうです。

欧米では、歴史的建築物に積極的に投資して、その価値を高めると同時に、まちの活性化にもつなげている。

日本でも、NPOが自ら運営に乗り出す例が、昨今では増えているそうです。

しかしながら日本では、欧米にくらべるとまだまだ歴史ある建物への投資が少なく、とくに地方都市では再生もままならず風前の灯火状態となっています。

歴史ある建物の保存・活用を進めるには、まだまだ大きな壁があるといわざるをえません。

歴史ある建物や街並みは、「あるところへ見に行けばいいだけだ」という人たちが多くいます。そのような人たちに、ぜひ知っておいてほしいことがあります。

歴史的建造物や風情ある街並みなどがのこる地方都市では、大変な努力をした結果として、現在まで歴史や文化を継承しています。

しかも、その努力はこれからも続いていきます。

写真:cragycloud

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