栃木県足利市、埼玉県行田市、小川町の活動概要
歴史ある古い建物に対する価値感は、まちに住む人々により感じ方が異なっているようです。昔からずーと暮らしている住民は、すっかり見慣れていて、単なる汚い、不便な建物と感じる場合が多いといわれます。
一方、比較的新しい住民、およびIターン組の人々は、歴史ある建物にまちの潤いと個性を感じて、その価値を高く評価する傾向にあるそうです。
10月13日、埼玉県小川町で行われた「全国町並み保存連盟」のゼミに参加してきましたが、そこでも上記に類することを感じました。
足利市および行田市の市民団体の代表は、ともにIターン組であり、歴史的な建物の利活用という活動に身を投じています。
足利市の「つむぐつむぐ会」代表の山田夕湖さんは、生まれ故郷の足利を離れて東京を拠点としていましたが、故郷のまちのシャッター通りにショックを受けて、何かできないかと考えて、故郷にもどったそうです。(仕事の拠点は東京)
また、行田市の「ぎょうだ足袋蔵ネットワーク」代表の朽木宏さんは、親の介護のためにIターンし、仕事の傍ら「足袋蔵」の保存、活用の活動を始めています。
足利市 つむぐつむぐ会 設立2015年
わたしたち「つむぐつむぐ会」は、
「空き家」や「空き家予備軍」の建物利活用で
人と人、人と建物、まちの歴史、地域の方々のつながりを大切にして、
たくさんの意図(糸)や思いを紡ぐように活動する会です。
と、会の案内パンフに書かれています。
「つむぐつむぐ会」代表の山田夕湖さんは、故郷のまちの衰退ぶりに意を決して、生活の場を故郷に移し、仕事の場である東京との2拠点生活を続けています。
山田さんたちは、歴史ある古い建物を目視で観察したあと、空き家である物件では、所有者と交渉し、了承を得たうえで建物周辺の掃除や雑草取りから始めて、その後、建物内部の掃除を行い、利活用の提案をしてゆくのだそうです。
活動に関しては、「実行してみたうえで、その都度考えよう」「行動することで課題や問題点が見えてくる」と、言っています。以下は、山田さんが書いた「空き家活用の取り組み」という文章から一部抜粋、要約して活動を紹介いたします。
空き家活用の取り組み/山田夕湖(つむぐつむぐ会代表、建築士)
「まちなか有効利用」無理なく楽しく、みんなで空き家に関わってみる多くの地方都市で問題となっている現象が、自分の生まれ育ったまちにも見受けられるようになりました。シャッター通り、空き家とは無縁だと思っていたのに。
・まちなかの実態調査からはじめる
そんな思いを抱いていたのは、わたしだけではありませんでした。建築設計の仕事を通じて知りあった、知人友人もおなじ思いにありました。それから、市街地に残る町並みや、歴史ある建物の現状について話し合いをするようになりました。・昭和初期に建てられた家が多く残る
まちなかの古い建物を外観目視で簡単な調査をし、昭和初期に建てられたであろう建物が多くあることわかりました。しかしながら、その多くは庭には雑草が生い茂り、建物の外壁は一部がはがれ落ちている状態でした。・かつて栄えたまちに空き家が点在する
調査したエリアは、明治・大正・昭和と繊維産業で栄えた旦那衆が通った花街でした。しかし、いまでは人通りもなく、空き家が点在する地域となりました。・建物を有効活用して賑わいを
このような現状を垣間見て、わたしたちは歴史風情が残る建物を有効活用して、いまの時代に合うような賑わいを生み出すことを目的に、2015年「つむぐつむぐ会」を結成いたしました。・行動することで課題がみえる
築100年前後の空き家となった民家の掃除片付けなどを行う市民グループと協力する体制をとりました。活動してみて、思ったより空き家が多く、また対応すべき内容も異なることがわかりました。机上では答えがでないことを実感しました。・建物所有者とのコミュニケーション
その後、町並み見学のイベント、空き家の草取りや掃除、不要物の処分など、その時にできることを続けながら、空き家だった建物をいかにして有効活用するか、その方法を模索していました。そのような活動を続けるうちに、空き家だけど残したいという思いにある所有者の方とコミュニケーションする機会ができました。その結果、全面的ではなくとも、ある程度、空き家の利活用を委ねていただけるようになりました。(以下、省略します)
文章はまだまだ続きますが、一部抜粋、要約は以上までといたします。「つむぐつむぐ会」に興味のある方は、以下のフェイスブックをご覧ください。
足利市「つむぐつむぐ会」フェイスブック
https://www.facebook.com/tsunagutsumugukai/?rc=p
写真引用:同上
行田市 ぎょうだ足袋蔵ネットワーク 設立2004年
足袋と蔵がつなぐまち
NPO法人ぎょうだ足袋蔵ネットワークは、埼玉県行田市にて足袋蔵や足袋に由縁ある建物を保存し活用しています。足袋蔵は、江戸後期〜昭和中期にかけて足袋の生産で栄えたまちの記憶です。(NPO法人パンフより)
<ぎょうだ足袋蔵ネットワークの主な活動> ※パンフより一部抜粋
下記の活動のほかにも、町づくりに関する様々なイベント・発表会へ赴いて、町の活性化とオリジナリティのある町づくりについての発表などの活動を行っています。
・忠次郎蔵プレオープン/2003年忠次郎蔵プレオープン
最初の主立った活動は店蔵だった忠次郎蔵の再活用でした。
2004年の忠次郎蔵本格オープンに向けプレオープンイベントを開き、解体予定だった見世蔵がここまで蘇った事をみんなで喜びました。・蕎麦店オープン/2004年忠次郎蔵手打ちそば店オープン!
「行田の近代化遺産を市民に身近に感じてもらえるように」と忠次郎蔵を手打ちそば店としてオープンしました。・蔵元会議/定例 蔵元会議
足袋蔵の所有者に参加して頂き、まちづくりの勉強会や今後の展望・希望、悩みの共有化等を通して所有者のネットワーク作りを始めています。・スタンプラリー2005/ぎょうだ蔵めぐりスタンプラリー2005
たくさんの人に行田の町並みのことを知ってもらおうと、スタンプラリーを開催しました。以降、恒例行事として毎年5月の第3土・日曜日に開催しています。・足袋とくらしの博物館オープン/2005年「足袋とくらしの博物館」オープン 旧牧野本店の工場と土蔵をお借りして、足袋作りの過程や道具、行田の足袋産業の歴史を知ることが出来る博物館をオープンしました。
・足袋蔵昔体験セミナー/2006年〜「足袋蔵昔体験セミナー」開催
普段はお蕎麦屋さんになっている忠次郎蔵を中心に、うどん打ちに挑戦したり、銭湯体験をしたり、工作をしたり、町あるきをしながら行田の町のお勉強をしたりします。・まちづくりミュージアムオープン/2009年「まちづくりミュージアム」オープン!
栗原代八蔵をお借りして、観光案内所をオープンしました。・マキテイシャオープン/2010年「牧禎舎」オープン!
忠次郎蔵からほど近い牧禎舎(マキテイシャ)をお借りして、大人の寺子屋をオープンする運びとなりました。・アーツ&クラフツinぎょうだ/2011年〜「クリエイターズフェスタ」開催
牧禎舎全体を利用して2011年9月24・25日に「クリエイターズフェスタ」を開催しました。・牧禎舎リニューアル/2014年 牧禎舎リニューアルオープン!
2013年度の助成金による改装を経て、2014年3月8・9日に行われた「アーツ&クラフツinぎょうだ」にてリニューアルオープンしました。
行田市では、足袋蔵をはじめ、周縁の文化財を含めて伝統・文化のストーリーとして「日本遺産」に登録しています。
行田市は、ドラマ「陸王」の撮影場所となっています。実に見応えのある歴史ある建物が残されていて、その外観から見て修復・修繕されているのが伺えます。
文化庁が、平成27年度に創設した新しい文化財制度で、地域の歴史的な魅力や特色を文化・伝統を語るストーリーとして「日本遺産」に認定し、有形・無形の文化財群を有効活用する取り組みを支援する制度です。
「ぎょうだ足袋蔵ネットワーク」公式サイト
http://tabigura.net/
小川町 小川町創り文化プロジェクト 設立2016年
埼玉県比企郡小川町は、武蔵の小京都といわれているそうです。
京都の町屋を思わせる長屋や江戸期の蔵造りの家、さらに看板建築まであります。かつては和紙や絹織物、醸造などで栄えたそうです。
<主な活動>
・小川町の魅力をSNSなどで発信
・小川町内外の方々が参加できるイベントを企画
・古民家の再生・活用・管理のアドバイス
・シンポジウムなどの文化的な活動を実施
・貸しスペース(公園・スタジオ・古民家ショップ)
写真引用:銭湯と路地裏散歩な日々
当該ゼミが開催された小川町には、りっぱな視聴覚ホールがあり、まるで映画館のようでした。
追記:
10月13日、高速バスと電車を乗り継ぎ約3時間かけて埼玉県比企郡小川町まで行ってきました。いやはや遠かった。帰りには、川越にも寄ってみましたが、川越一番街は人通りが多く、活気に満ちていました。
ひさしぶりに池袋から東上線に乗りました。そういえば、たしかアニメイトの本社が東上線のどこかにあった、と思い出しました。思えば遠くにきたもんだ、とばかりに遠い日の記憶がよみがえりました。いやはや。
基調講演を行った後藤治氏(工学院大学理事長)の話がとてもわかりやすくて、目から鱗が落ちるがごとくでした。後藤氏には著作がありますので、歴史ある建物を生かしたまちづくりに興味のある方はぜひ読んでみるといいと思います。
シリーズ都市の記憶を失う前に「伝統を今のかたちに」
後藤治著(白揚社新書)
冒頭写真:行田市 牧野本店
コメント