市民団体が主導したまちづくり
現在、日本各地で地方創生の掛け声に基づき、まちおこしがちょっとしたブームであるが、それが成功したという話はあまり訊いたことがない。
ブームとは別に、地道に活動を続けた結果として成功している事例は、いくつかあるようだ。それが歴史ある建物を現代に生かしたまちづくりを市民団体が推進してきた、京都、川越、倉敷などである。(なお、京都ではいまでも京町家の取り壊しが止まないそうであるが)
とにかく、いずれも行政ではなく、市民団体が主導してまちづくりを推進したことが特徴となっている。それが何を物語るかといえば、住民主体で考え、行動しないと画一化の波に飲み込まれてしまう、ということかもしれない。
岡山県倉敷市/倉敷町家トラスト 会員数330人
人口減や高齢化の影響で空き家が目立つようになり、管理が難しい町家を再生し景観を保とうと住民が取り組んでいる。
<活動内容>
・築約80年の平屋の町家を、体験型宿泊施設として再生した。
・築約80年の木造2階建ての町家を、ギャラリーや事務所、研修室として利用する多目的スペースとして再生した。
・起業や定住する人に空き家を紹介する。
・地域活性化につながる地場産業を活かした商品や新製品の製作を目指す人を集め、13軒の活用を進めた。
<会設立の動機>
歴史ある街並みが、人口減、高齢化に伴う空き家の増加、取り壊されて駐車場になるなど、景観が損なわれはじめた。2006年、約50人で倉敷町家トラストを結成し、景観を守る活動を始めた。
京都府京都市/京町家再生研究会 友の会270人
古都京都の街並みを守ろうと市民や建築家らが協力し、中心市街地の町家約8000軒を調査し、町家の存続状況をデータベース化する。
<活動内容>
・92年〜、中心市街の町家約8000軒のデータベースを構築。
・99年、「京町家作事組」を発足。伝統的な建築術を持つ大工や専門家が参加し、改修工事を行う。
・99年、「京町家友の会」を発足。町家に住む人や関心のある人が参加し、街並みを守る意識・価値観を醸成する活動を行う。
・2000年、「京町家情報センター」を発足。町家の持ち主と購入や賃貸を希望する人をつなぐ。
<会設立の動機>
市中心部では町家の取り壊し、建て替えが進み景観が大きく変化してきていた。バブル期にはさらに多くの開発計画が立てられた。伝統的な家並みが喪失するのを危惧した住民、建築家、研究者らが1992年に会を結成した。
8000軒のデータベースは、行政ではなく民間財団の支援で行われた。現在は、行政と共有し、まちづくりを支えている。
空き家を活用してもらうため、起業を目指す人も紹介、おなじ思いを持つ周辺の団体とネットワークを築き、活動を広げている。
http://www.kyomachiya.net/index.html
埼玉県川越市/川越蔵の会 会員数203人(2014年)
川越のまちづくりは「川越蔵の会」が発端となり、街並みの保存、街並みを活かした商業活性化のための活動が活発になっていき、その活動が後のまちづくり規範の策定、街並み委員会の設立につながっていった。
<設立の経緯>
1982年頃から建築家や大学教授らが川越の蔵の素晴らしさを認識していて、市民に対して啓蒙活動を行った。(保存運動、シンポジウムなど)
その動きと並行する形で、1983年、川越一番街商店街で陶器店を営む神島氏と市役所の植松氏を発起人として、蔵の保存・蔵を活かした商業活性化を目的に「川越蔵の会」が結成された。
最初、共鳴者は5人ほどであったが、商店主、青年会議所、産業人、専門家(大学教授、研究者)など、次第にメンバーは増えていった。市役所の公務員も、行政としてではなく、個人として入会し活動している。
<活動内容>
(1)部会活動(事業部、運営部、デザイン部、広報渉外部、女性の部である女蔵部)
*デザイン部メンバーが建築家で構成されており、商店の改装や看板のデザインについて相談にのる。
(2)定例行事の開催
月一回開催される「街並み委員会」(詳細後述)に委員として、参加会員が市内で新築・改築等された建物等について川越の景観にふさわしいと推薦したものの中から数点を選び、「蔵詩句大賞」として表彰。
<川越のまちづくりの成果>
年間約400万人の観光客が訪れる(川越祭り60万、初詣50万を含む)。
<経済的効果>
十年間に比べると客は3倍に増え、年商は一番街加盟64店舗の半数近くが倍増した 。
<まちづくり規範>
一番街のまちづくりの原則を集めたもので67項目からなる。
これらの項目は、川越市全域を対象とする大きなスケールに関するものから、建築の細部といった小さなスケールに関するものへと配列されている。
追記:
ここで紹介した市民団体は、日本でも有数の非営利団体である。かれらが努力したまちなみづくりは、いまや全国的に有名な存在となっている。しかし、その背後にいた市民団体は意外と知られていない。
成功事例に学ぶことは多くある
置かれた環境は異なれど、きさらづでもどこかに参考になる要素が多くあると思われます。とにかく、上記した団体のまちづくりに関する意気込みは並大抵ではありません。それは、その活動実績からも見て取れます。
「まちづくりシンポジウム/川越蔵の会」
Rの会では、2018年12月9日に「まちづくりシンポジウム/川越蔵の会」を開催いたします。上記した「川越蔵の会」の設立時から深く関わってきた荒牧澄多(あらまきすみかず)氏を講師として招いて、講演とシンポジウムを実施いたします。
こちらを参照ください。
「まちづくりシンポジウム/川越蔵の会」開催のご案内
冒頭写真:「表屋造り」の町家で店舗棟は明治2年(1869年)頃の建築。京都市登録有形文化財 ウィキペディアより
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